大真面目なリンガーTの話。
“それ、なんのTシャツ?”って聞かれる。
まあ、そうだよねってなるやつ。
ピザ、ホットドッグ、ドーナツ、ビール。
それぞれ一言だけ、胸元にプリントされたリンガーTシャツ。
誰が見ても「ふざけてる」と思うだろうけど、
ちゃんと着ると、ふざけてない。むしろ、妙にハマってる。
プリントの色味、少しかすれた質感、
パイピングの配色もそれぞれ違っていて、
ただの“ネタT”と呼ぶには惜しい完成度。
4人で並んだとき、その空気感が思った以上によくて、
写真を見返しているうちに、
「あれ、意外と良かったな」ってなった。
|ピッツァに言い直しそう。
このTシャツは、“PIZZA”と書かれている。
それだけ聞くとネタTみたいだが、思ったよりちゃんとしてる。
赤のパイピングと白地のバランスが、ダイナーのチェッカーフロアみたいで、妙に画になる。
ピザを持って歩いてもよし、ただ座ってるだけでも絵になる。1つ欠点を上げるとすれば、発音には気を付けないといけない事。
|ホットドッグを焼く係になりがち。
“HOTDOG”と書かれたTシャツを着て、炭火の前に立ってしまったが最後、
気がつけば焼き係を任されている。
誰も頼んではいないが、文字がそう言っているから仕方ない。
オレンジのパイピングはケッチャップとマスタードの中間色。
ただ、それらをこぼしちゃ、ちょっと怖い。
白地に落ちると、ただの事故Tになってしまう。
下みたいな顔に。
第三章|何もしない日用ドーナツ
個人的ですが、“DONUTS”大好きです。
ブラウンのパイピングが落ち着いていて、気張っていないのに洒落て見える。
コーヒー片手にベンチでぼんやりしてると、
たぶん何もしない日に見えるけど、
それが一番正しい過ごし方だと思っている。
なんなら毎週そうでもいい。
|昼から飲む人っぽく見えるけど、それは否定しない
“C.BEER”と書かれたTシャツは、他の3枚に比べるとややひねくれている。
ビールなのに青パイピング。爽やかそうに見せておいて、
昼から飲む気満々みたいな顔もしてる。
ロゴのフォントは他と少し違って、
いちばん語らないくせに、いちばん目立っていた。
このTシャツを着てジュースを飲むのは、なんだか嘘をついてるような気がする。
でも、水を飲んでいても酔ってそうに見える人っているから、それもまた才能かもしれない。
|誰も本気じゃない、それが一番こわい
“ふざけたTシャツだね”って言われると、否定する気にはならない。
でも本当は、プリントのフォントも、色の抜き加減も、
たぶん一番考えられているのはこのTシャツ。
パスタもペペロンチーノが一番難しいし。
洒落てるけど、どこか抜けてる。
ネタっぽいけど、やけに様になる。
一番怖いのは──これを着てる本人たちが、
そのギャップにまったく気づいていないこと。
気づかなくていい。
余談だがビールの彼は、下戸だ。
photograph & text by hilomi