WORKERS STYLE Vol.7
ヘリテージパンツは完成していない。
ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。
望月貴弘
1984年生まれ、東京都出身。古着愛好家でもあり、バイヤーとしても長年活躍。現在も某リユースショップで働きながら、独自の視点で古着市場を牽引している。大学時代に古着屋との出会いをきっかけにアパレル業界に進むことを決意。特に某リユースショップに所属してからの18年間は、リユース業界の成長を支え続け、業界内外でその実力が評価されている。
祝服
7年前くらいだろうか。まだ曖昧な、自分という小さな存在に苛立っていた頃の話。
服に関わる仕事がしたかった自分が、ふとした縁でリユースショップに身を置くことになった。
どうしてセレクトとか、ブランドじゃなくリユースショップだったのか、答えは簡単だ。
そこらで働く勇気がなかった。ただそれだけのこと。
あの洗練された空間にいるスタッフたちの横を通るだけでも息が詰まる。
だけど、働き始めてすぐに後悔した。
目の前に積み上がるのは、覚えきれないほどの膨大なブランドと服の山。
手は追いつかないし、頭ももちろん追いつかない。
そんな愚かな僕をやさしく、笑いながら頑張れと意地悪に笑うその人が
望月さんだった。
当時から名の知れたトップバイヤーだったその人は
僕が服を生業にしたいとそう思うきっかけの一人だ。
―― お忙しい中、ありがとうございます。改めてよろしくお願いします。
望月:こちらこそ。なんだか改まるとちょっと照れるね。
―― 確かにそうですよね(笑)7年お世話になってますし。早速ですけども、意外ですね、昔はあまり服には興味がなかったとか。
望月:そうなんだよね。本当に無関心で。でも、周りに少しイケてるやつらがいてさ。グレゴリーのバックパックとか、裏原系のブランドを持ってる姿を見て「なんかいいな」って感じたのが最初かな。
―― そういうのありますよね。なんか一人ずば抜けてオシャレな人。
望月:いたよね。そんな中でも決定的だったのは、自信がなかった時に「その服いいね」って褒められたことだね。たった一言だけど、すごく響いたんだよね。「自分でも認められるんだ」って思えたのが嬉しくて。そこから服ってただのモノじゃないんだなって感じたんだ。
―― その瞬間が今につながる原点になったんですね。その後、大学時代には古着に深く入り込んだとか。
望月:そうそう。町田とか八王子の古着屋に入り浸ってたよ。特に八王子の古着屋は、まるで“学校”みたいな場所だった。オーナーが服の背景や作り方を丁寧に教えてくれるし、集まるお客さん同士でも情報交換したりして。服を通じて人とつながれるのが楽しかったんだよね。
出会い
―― 現在の仕事の出会い、聞いたことないですよね。
望月:話したことなかったね、そういえば。大学3年の就活中に、たまたま説明会に参加したのがきっかけ。社長が「うちは小さい会社で、いつ潰れるか分からない。でも、ここで働けばどこでも生きていける力が身につく」って言っててさ。その正直さがすごく印象に残った。
―― 確かに、普通なら安定や福利厚生をアピールしそうですよね。
望月:そうそう。でも、その正直さが逆に信頼感があったんだよね。それで入社したんだけど、最初は本当に大変でさ。販売スキルも知識も全然足りなくて、同期にもどんどん追い抜かれるし、一度は辞めようと思ったくらい。
―― そこから何か転機があったんですか?
望月:4年目に福岡に異動したことが大きかったね。人脈も土地勘もゼロの状態で、一から顧客を作る必要があった。地元のセレクトショップやカフェを回って、少しずつ顔を覚えてもらうようにしてさ。最終的に100人以上の顧客を作れたのは自信になったし、その経験がバイヤーとしての基盤になったと思う。
ヘリテージパンツ
―― そんな望月さん、ヘリテージパンツ結構履いてくれてますよね、気に入っている点、是非聞かせてください。
望月:シルエットが完璧なんだよ。丈感もちょうど良くて、朝「何履こうかな」って迷った時に自然と手が伸びる。それって「一番しっくりくる」からだと思う。
―― 丈、本当に大事ですよね。ピタッと来ると尚更。
望月:しかも丈夫で、ポケットの生地が気持ちいいところもいいね。男ってポケットに手を突っ込むことが多いけど、その感触が良いと地味に気分上がる。それに、適当に履いてもシワになりにくくて見た目も整ってる。仕事でもプライベートでも安心して使えるんだよね。
―― 服のプロにそう言ってもらえて光栄です。褒めてるばかりでもあれなので、気になる点とかはありますか?
望月:そうだね、しいて言えばフロントのボタン少し硬いかなって思うからこれからも沢山履いていきたい。これってただの服じゃなくて、自分を表現してくれるんだよ。
バイヤーとして。
―― 全然あれなんですけど、独立とかしないんですか?
望月:考えたことはあるけど、現実的には厳しい部分もあるし、今の環境でできることをもっと突き詰めていきたいと思ってるね。服って、さっきも言ったけど自分を表現する手段であり、人と人を繋ぐきっかけでもあると思う。だから、今の自分もあのときの古着屋みたいに、服を通じて誰かのつながりを生む場でありたいって思うんだ。ヘリテージパンツもそうだけど、人の暮らしや価値観に寄り添って、そこから新しいストーリーやつながりが生まれる。そんな服の魅力を、もっと多くの人に届けていきたいね。
―― 7年前と変わらず服に熱い、これお酒飲みたいなぁ、、、。
望月:また、服の話でもしながら飲もうよ。今日はありがとうね。
服はただのモノじゃない、望月さんの話を聞いて改めて感じた。
ヘリテージパンツも、着る人次第で表情を変える。その人の働き方やライフスタイルが滲み出て、初めて完成するっていうのは、なんだか粋だなと思う。
「また、服の話でもしながら飲もう。」
望月さんが笑いながらそう言った。大人になると、こういう何気ない一言が結構刺さる。
7年前のあの屈託のない意地悪な笑顔は健在。まだまだ頑張れって事かな。
渋谷の夜、気がつけば21時を回っていた。もう少し服の話を聞いていたかったけど、続きはまた次の機会にしよう。