WORKERS STYLE Vol.4

 

ヘリテージパンツは完成していない。


ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。

小松 一樹

1985年、静岡県生まれ。yup!オーナー。

某コーヒー店で珈琲の基礎などを学んだ後にクラフトビールとの運命的な出会いを経て、近所にあったらいいなと思う店をコンセプトに掲げるコーヒーとドーナッツとクラフトビールの店「yup!」をopen2024年で3周年を迎える。

 

―yup!!!!

池ノ上には僕が愛してやまない、というと大げさだと怒られそうなので無くなってもらっては困る店がある。夫婦で毎度暖かく僕を迎えてくれる「yup!」だ。最初はスタイリストの上野さんにドーナッツにはまっている話をしたら、紹介してくれたのが初めてだ。おすすめはチョコレートドーナッツ。撮影やuniversaloverallの店舗5周年記念にもケータリングでお願いしたほど。

もうかれこれ、100個は食べている。言い過ぎか。

何にせよ通うきっかけになったのはこのドーナッツだが、今ではここの小松夫婦が通う理由だ。

 

・スタイル:yup!

 

小松:大海くん、お待たせ。今日はよろしくね。

 お世話になってます。営業時間前に申し訳ないです。

 小松:とんでもないよ。いつでもどうぞ。

 ありがとうございます。早速、まずはお店について教えてください。

 小松:はい。コーヒーとドーナッツとクラフトビールのお店です。ビールは常に4タップ用意していて、無くなり次第、新しいビールに入れ替えるシステムになっています。カウンターが主で、フラッと寄れて軽くあと一杯を叶える「近所にあったらいいな」がコンセプトのお店です。

 

ありがとうございます。僕も通い始めてから半年ほどですが、本当に「近所にあったらいいな」って思えるお店です。先日は3周年のイベントがありましたが、どうでしょう。今まで働いてきて印象に残っていることとかありますか?

 小松:お店ができて、ちょうど1年経った頃かな。ありがたいことに常連さんがいて、その方に「2人に会いたくて来ている」と言われたことだね。

 やっぱり、僕もすっかり小松さんたちに会いに来ていますけど、以前はこのような雰囲気ではなかったんですかね。

 小松:そうなんだよ。というのもね、yup!はオープンしてから良くも悪くもSNSで1人歩きしてしまって。お客さんは常に来ていただける状況ではあったんだけど、自分たちが思い描いていたコンセプトのお店ではなくなっていたんだよね。そこで、常連さんから「2人に会いに来てる」って言葉をもらえたことで、yup!と同じ目線に立てたと感じたね。

 なるほど、強制されているような感覚になりますね。折角、自分たちのお店なのに。

 小松:感覚的にはそうかも。yup!のスタッフみたいになってたね。

 それは大変でしたね。何かそこから働く上で大切にしていくこととか増えたんじゃないですか?

小松:空気感はよく考えるようになったね。その時のお客さんに合わせて心地よくいてもらえるように日々大切に考えてます。例えば、このお客さんたちは話をしたら盛り上がるなとか、逆にこのお客さんは一人で静かに飲みたいタイプだなとか。そんなに広くはない店だから、繊細さが求められるんだよね。

もう一杯、飲みたくなるような居心地の良さがyup!には確かにありますよね。服なんかもお店の雰囲気を作っている一つの理由になるんでしょうか。

 小松:普段の服のままお店に立つことが、結構大事かもしれない。プライベートとの境目をなくすことで、自分らしくお客さんを迎えられるというか。あと、ボロボロの服に美学を感じる。Tシャツなんて黄ばんでてクタクタなほどいいと思ってるよ。

 マニアックですね(笑)。でもね、わかりますよ。あの何とも言えない色とクタっと感はたまらないですよね。ヘリテージパンツはそういう面でいうと、多少生地はしっかりめだと思うのですがどうでしょう?

 小松:最初、試着した時から面白かったんだ。着替える予定だったのにこのまま出かけていたんだよ。それから履き続けてみると、生地がどんどん馴染んでくる。その変化がいいね。頑丈なのに、動きやすい。ポケットも深くて、日常にすっと溶け込む。気がつけば、こればっかり履いてる。履くたびに自分のものになっていく感じが、たまらない。

↑ HT01 ORIGINAL

 それだけ気に入っていただけたのは嬉しいですね。小松さんにとって、服の役割って具体的にどんなところだと思いますか?

 小松:自分より自分なんだよね、服って。お店の雰囲気を大切にしているように、服それぞれにも雰囲気があってそれはその一瞬ではなくて自身と積み重ねてきたものが出せるものなんだと思う。自分よりもわかりやすく。

 

黄金色の液体を空に掲げ、「大人の味だ」と笑う顔を、いつか不思議そうに見つめていた。それがどんな匂いだったのか、どんな声だったのか。記憶はあやふやなのに、確かに胸のどこかに残っている。いつから飲めるようになったのかなんて、誰にも聞かない。野暮だから。ただ、今日もそれを手にする。

 YUP!に足を運ぶと、ふと感じることがある。飲みに行くというより、帰ってきたような感覚。その理由はきっと、小松さんという「」だろう。言っていた「服は自分よりも自分を語る」は今でも何か胸に残る。小松さんがその場の空気を汲み、自然体で迎える姿勢。それが服に映り、そして店の空間そのものになっている。ヘリテージパンツを履いた時のことも語ってくれた。

「気づいたらそのまま出かけていたんだよね」と。

特別な意識はない。ただそこにある。それが小松さんにとっての“良い服”なのかと思う。日常の一部になり、気づけば自分を語り始める。ヘリテージパンツは、そんな服だと思う。

大げさではなく、小さな人生の一瞬に寄り添うような一枚。

おまけ。

愛してやまないPACOちゃん。

 

text and photograph by hilomi yoshida