WORKERS STYLE vol.13

WORKERS STYLE vol.13

ヘリテージパンツは完成していない。

ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。


Vaughan Joseph Allison / MIAMIAオーナー

1983年、オーストラリア生まれ。大学卒業後、日本の企業に勤務。その後、バンドのマネージメントを経て、日本へ移住。現在は文化服装学院で英語を教えながら、モデル業、音楽プロデュース、さらには自身のカフェ MIAMIA のオーナーとしても活動。カルチャーを媒介にしたコミュニティ作りを大切にし、日本とオーストラリアをつなぐ独自の視点でライフスタイルを提案している。


BLENDURE

UniversaloverallPRになって初めてのLOOKのモデルを頼んだのがVaughanさん。

MIAMIAというCOFFEESHOPを友人の紹介で知り足を運んだ。東長崎というと僕は正直あまりパッとしなかったのだが。

駅から徒歩三分ほどにそのお店はある。

 MIAMIAには本当に色々な人が訪れ、色々なことが起こる。

突然、気功を使えるおじさんに肩こりを治されたり(これは実体験)、人手が足りないとき馴染みのお客さんが初めて来たお客さんにメニューやドリンク運んだり、人生相談を初対面の人にしてくる人がいたり。

もっと沢山の話なども書いていきたいのは山々だがここで書いては映画のネタバレと等しく罪になるので控えさせていただく。

 まだ店の看板が見えてきたくらいの距離だというのに響く、「ヨシダさん~!!!」

 少し恥ずかしいんだけど、無いとまた違うんだろうな。この声。東長崎の名物人に今日は話を聞いていく。


――Vaughanさん、お元気ですね。

Vaughan:ヨシダさんお久しぶりです!コーヒー、飲みますね?

 ――いいんですか?アメリカン、お願いしようかな。

Vaughan:アイヨ!!! 

 

※本当にこんな感じの人

 

――Vaughanさん今日は取材ですが、お忙しいのにありがとうございます。

Vaughan:よろしくお願いします!楽しみにしてましたよ!

 ―― ありがとうございます(笑)早速ですけど、驚きましたね、文化服装学院ではもう15年も英語を教えているんですね。

Vaughan:そうですね。気づけばもうそんなに経ってたね(笑)。文化の学生はみんな個性的で、すごく面白いんです。服が好きな子ばかりだから、英語を学ぶことも「この単語を知っていたら海外のブランドと話せる」とか、「自分のデザインを海外に発信できる」とか、実用的な視点を持っている。だから、教えていてもすごく刺激になります。

 

―― 確かに、服に興味があると語学も違った角度で身につきそうですね。

Vaughan:そうそう。例えば、「シルエット」って言葉ひとつとっても、日本語と英語では微妙にニュアンスが違う。日本語の「シルエット」って、割と全体の輪郭を指すことが多いけど、英語だと「特定のフォルム」みたいな、もっと具体的なイメージだったりする。言葉って、文化と一緒に進化するものだから、ファッションの世界でもそういう違いを感じることが多いね。

―― 言葉だけでなく、感覚ごと伝えるような授業なんですね。

Vaughan:ファッションも言語みたいなものだからね。服装も、色の組み合わせやシルエットで何かを伝えようとしているし、その国の文化や考え方が現れている。だからこそ、日本の学生が海外のファッションに興味を持つのも当然だと思うよ。

 

―― 日本とオーストラリア、それぞれのカルチャーの違いをどう感じていますか?

Vaughan:オーストラリアはもっとカジュアルで、どこか軽いというか、文化的な「蓄積」みたいなものが少ない。でも日本は歴史が長くて、伝統的なものがしっかり残っている。そういう部分がすごく魅力的なんだ。

―― 例えばどんなところですか?

Vaughan:喫茶文化かな。オーストラリアのカフェ文化とは違って、日本の喫茶店にはそれぞれのストーリーがあるし、空間の使い方が独特なんだ。オーストラリアではカフェは生活の一部だけど、日本ではカフェが「特別な場所」になりがち。

 

―― その違いが、「MIAMIA」のコンセプトにも影響しているんですね。

Vaughan:そうそう。僕が作りたかったのは、もっと日常の中にあるカフェ。誰でも気軽に立ち寄れて、そこから何かが生まれるような場所。お客さん同士が自然に会話を始めたり、ふとした出会いが生まれたりするような空間にしたかったんだよね。

 


「自由でいる」ための服

―― 仕事柄、いろんな場所を行き来することが多いと思います。服を選ぶ基準はありますか?

Vaughan:まず「動きやすいこと」。カフェでは立ちっぱなしだし、学校では授業をして、そのあとまたカフェに戻る。1日中動いているから、着心地が悪い服は疲れちゃうんだ。

 

―― だから、ゆったりとしたシルエットが多いんですね?

Vaughan:そうだね。文化の学生たちからの影響も大きいよ。彼らはファッションに対してすごく自由で、自分のスタイルをしっかり持っている。そういう環境にいると、自然と「服を楽しむ」っていう気持ちが強くなる。

 

―― ヘリテージパンツの履き心地はいかがでしたか?

Vaughan:すごくいいね。動きやすいし、しっかりした生地で、ガシガシ使えそう。カフェの仕事って意外とハードワークだから、丈夫な服じゃないとダメなんだよ。

 

―― まるでずっと履いていたような雰囲気でした。

Vaughan:そうなんだよね。不思議と、何も考えずに選んでる。そういう服って、やっぱり自分のスタイルに馴染んでるんだと思う。


My A

MIAMIA の扉を押すと、深く澄んだ香りが鼻をくすぐる。コーヒー豆が弾ける音、スチームミルクのかすかな唸り。空気がゆっくりと温まり、店の奥で Vaughansさん がカウンターにもたれながら、静かに豆の香りを確かめている。

ヘリテージパンツのポケットに手を入れる。カフェでは立ったり、動いたり、かがんだり。学校では教壇に立ち、またカフェに戻る。朝から晩まで、言葉とコーヒーを行き来するような日々の中で、共にしている。履こうと意識することもなく、気がつけば。

Vaughanさん の選ぶ服には、どこか余白があって。新しい服を買うことはあっても、ひとつは何年も着続ける。今日は奥さんの服を羽織っているし。日本のブランドも好きだきで、ヴィンテージもいい。文化服装学院の教え子たちが選ぶ色や形を眺めながら、自分のスタイルにも少しずつ変化が生まれていく。

MIAMIA で淹れるコーヒーも同じだ。
オーストラリアのカフェ文化に根付いた習慣。毎朝の一杯が、その日の自分を決める。だから Vaughan さんはカウンターの向こうで、いつもと同じように、少しだけ手をかけながらコーヒーを淹れる。今日の豆の具合を確かめ、ミルクの温度を感じながら、最後の一滴まで見届ける。

色々なものを、いつもと変わらないものを選ぶ。けれど、ほんの少しの違いが、今日という一日を特別にする。

どのくらい履いているのか。どのくらい、コーヒーを淹れてきたのか。覚えてなくてもいい。ただ、手の中には、今日も馴染んだ布と、馴染んだ香りがある。

 

 

text and photograph by hilomi