WORKERS STYLE Vol.11

 


ヘリテージパンツは完成していない。

ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。


 

田上陽平/陽食シェフ

1989年生まれ、熊本出身。料理との縁は実家の洋食屋で育った幼少期に遡る。ニュージーランドでのワーキングホリデー、日本食レストラン、東京でのイタリアンレストラン勤務を経て、2024年、自身のレストランをオープン。温かみのある内装と地元食材を使った料理で、日常と特別を行き来する空間を提供している。


陽気陽郎

 このインタビューの読者はうすうす気づいているかもしれないが、僕はかなりグルメだ。一歩ずれたら某グルメサイトになりかねない程に。

初回の餃子世界東京の並びにある陽食に今回取材させていただく陽平さんがいる。

餃子世界のオーナーでもある守屋さんから新しく店を出すとのことで、どこに?なんて聞いたら隣だというから最初は行く気がなかった。再三、飯屋は人由来と言ってきた自分だがら、隣という理由で行きたくない天邪鬼だ。

 ある日ふらっと餃子を食べに行った時、店の外に休憩中の陽平さんがいて目が合った。軽く挨拶はしようかと思ってなにか話しかけようかと思ったのだけれど。

「食べてくでしょ?」

僕の気も知らないで、天邪鬼が終わった瞬間だったんだけども。

悔しさと親しみを込めて陽気な野郎!と失礼いたします。

 


 

――今日はよろしくお願いします。突然だけど陽平さんの顔見ると、腹減るなあ。

田上:よろしく!まだなんも用意してないよ(笑)作りながらでもいい?

―― 勿論です、そういえば料理人を目指したきっかけは何だったんですか?

田上:実家が洋食屋で、小さい頃から料理に囲まれた環境で育ったんだ。まあでも、料理人になるとは思っていなくて。高校を卒業してニュージーランドでワーキングホリデーをしたとき、日本食レストランで働いたのが転機だね。現地のお客さんが「美味しい」と笑顔になるのを見て、料理を通して人と繋がれるんだって気づけたのが大きいかも。

―― 東京でもレストランでシェフをされてましたよね?その時の経験は今のお店にどう活きていますか?

田上:イタリアンレストランに勤めたんだけどね。学んだのは、ワインとのペアリングや、国境を越えた料理のアイデアとか。素材の組み合わせや調理法には無限の可能性があるなって感じたね。それが、今の自分の料理スタイルに大きな影響を与えてくれてる。


 

―― やはりお店のコンセプトも何かこだわりがあるんですか?。

田上:温かい空間を作りたいって言うのはこだわりとしてあったね。洞窟のような雰囲気がコンセプトで、カウンター席やロフト、半個室と、シチュエーションに応じて楽しめる設計にしたんだ。料理だけじゃなくて、空間そのものが特別な時間を演出できたらと思っていてね。

―― 地元熊本はどうですか?食材には疎くて。

田上:熊本はね食材の宝庫だよ。赤牛、塩トマト、スイカどれも地元の誇りだね。これらを最大限活かした料理で、熊本の魅力をもっと広めたいね。将来的には、地元に還元できるような活動も計画していきたいね。


道具と服、仕事のリズムを支える存在

―― 料理人にとって道具は生命線だと思いますが、陽平さんにとってのこだわりはありますか?

田上:やっぱり包丁にはかなりこだわりがあるね。毎日使うものだから、自分の手にしっくりくる重さとバランスが大事。切る食材によっても使い分けるから、包丁選びはすごく慎重にしてる。

―― 同じようにワークウェアにもこだわりが?

田上:まずはリラックス感。料理は動きが多いし、服のストレスは避けたい。ヘリテージパンツは太めのシルエットがちょうどよくて、動きやすいし普段着にも馴染む。料理中に汚れても気にしなくていいっていう点も魅力だよね。仕事が終わって汚れたパンツを見ると、頑張ったなって実感できるし。

―― ヘリテージパンツにこうなってほしいな、みたいなのありますか?

田上:自転車に乗る時に少し引っかかる感じがすることかな。でも、それもまあ細かい話で、全体的にはすごく満足してるね。縛ればいいだけだし(笑)


―― ワークウェアは陽平さんにとってどんな存在ですか?

田上:自分にとっては戦闘服。この服を着ると、仕事に向かう気合が入るしなんか強くなった気がするというか(笑)汚れやシワは、仕事のやったなって、自分の成長の跡みたいなもの。だから、これからも使い込んでいくのが楽しみだね。悟空も破けてたり汚れてる方が強いでしょ?


陽平さんの料理は、人柄そのままだ。飾らないし、気取らない。
でも、味にはしっかりと芯があって、食べた瞬間に「ああ、これは陽平さんの料理だ」とわかる。
それはヘリテージパンツにも通じるところがある気がしていて、履きこむほどにその人の""が出て、いつしかそれが唯一無二のスタイルになる。

 初めて店に行ったとき、僕はこの天邪鬼な性格ゆえに、なんとなく避けようとしていた。
でも、店の前で休憩していた陽平さんと目が合い、こう言われた。

「食べてくでしょ?」

……おいおい、そんなこと言われたら断れないじゃあないか。
こうして僕のひねくれたプライドは、彼の料理とともに溶けていった。厨房での陽平さんは、また面白い。包丁を自在に操り、火加減を調整し、無駄のない動きで料理を仕上げていく。普段からは想像がつかない程に。
「戦闘服」っていうのも、彼らしい表現だ。確かに、油やソースが飛び散り、動き回ったあとのヘリテージパンツには、その日の戦いの""が刻まれている。きっと数年後、また彼に会いに行ったとき、ヘリテージパンツはさらに良い感じに育っているはずだ。
そして僕はまた、「食べてくでしょ?」の一言で、天邪鬼なプライドを捨てることになるんだろう。

全く、陽気な野郎だ。

 名物のオムライスも載せておく。

あぁ、お腹すいた。

 

Textandphotograph by hilomi