WORKERS STYLE vol.5

 

ヘリテージパンツは完成していない。


ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。

 

志村直人

1997年 東京都生まれ。高校卒業後、イタリア料理の店で修業。その後アパレル業界で新たな知見を経てトラットリアセレーナの料理人に。

 

 ―母の味

白金、と聞くだけで背筋が伸びる。六本木やら麻布やら、あのギラつき飾り倒した敷居の高さとはまた違う、静かに人を見定めるようなそんな街。

 僕はそんな街に来るのは偏に、トラットリアセレーナがあるからだ。

トラットリアとはイタリア語で食堂という意味らしく、白金にいい意味で似つかわしくないその響きが気に入っている。知り合った頃の直人さんはセレクトショップの店長だった。アパレルのね。確か2年前くらい、気さくで人当たりのいい笑顔が素敵、オシャレな人。そんな彼がつい1年半前に料理人になりますと言ったものだから、何の風の吹き回しかと思ったら。

 食堂、良いじゃないの。

 白金高輪に14時。

STYLE:料理人

 ――直人さんお邪魔します。

志村:お疲れ様です!

――今日は、セレーナの賄が食べれるということで。

志村:パスタにしようかなって、手打ちの。

 ――手打ち。いいですね、パスタ好物なんです。では作っていただきながら早速。

志村:はい、お願いします。

 現地の空気、日本でのイタリアン

―― 志村さん、料理人としてのキャリアのスタートはイタリアンレストランだったとか。

 志村:はい、最初に働いたのがイタリアンでした。1年半ほど勤めていましたね。周りにはイタリア人のスタッフが多くて、現地の料理を直接教わることができました。その経験が、現地の文化や価値観を大切にするきっかけになりました。

 ―― イタリアのフィレンツェにも行かれたんですよね?

 志村:そうですね。料理人になった年に現地の感覚をもっと掴みたいと思って、フィレンツェを訪れました。現地のトラットリアを巡って日本に持ち帰れそうなアイデアを探していて。特に印象に残っているのは、日本人の師匠が経営する『ACCADI』という店ですね。師匠はイタリアで30年以上も働いていて、12ユーロでスープ、パスタ、肉の3品が食べられるような、地元密着型の店なんです。

―― 現地での経験が今に生きていますね。

 志村:そうですね、特に食材や手作業へのこだわり方は、今の自分に大きく影響しています。例えば、パスタを生地から作る方法だったり。手間がかかりますが、店の個性を出せるし、作る意味があると思っています。

 

 衣から食へ

 ―― 料理の道に進む前、ファッション業界で働いていたそうですね。

志村:そうなんです。『フィート』というアパレルショップで3年半くらい働いていました。最後は店長もやらせてもらいました。当時から服が好きで、特にアメリカンカジュアルやビンテージものに惹かれていましたね。

 ―― なぜ料理人の道を再び選んだのでしょう?

志村:単純に、アパレルの仕事をしていた頃、精神的に料理と向き合うのが厳しかったんです。でも“作る”という行為自体は好きだったので、そこに自然と戻っていった感じです。

 

―― HT03 volume

 

ヘリテージパンツと共に

―― 今の料理人という仕事で、ワークウェアにはどんなことを求めていますか?

志村:やっぱり動きやすさが大事ですね。特に太めのパンツが好きで、肌にまとわりつかず快適に動けるものがいい。ヘリテージパンツを初めて履いた時も、その絶妙な太さと履き心地に驚きました。程よくゆとりがあって動きやすいし、生地も丈夫なので、長時間の作業でも疲れない。

 ―― シンプルなんだけどこだわりがある。

志村:そうなんです。そんな見た目も気に入っています。業務用の洗剤を使うから、余計な装飾がない方が洗濯しやすいし、ガシガシ洗っても傷まない丈夫さが助かります。汚れることを気にせず使えるのも嬉しいポイントですね。

 ―― 実際に仕事で使ってみてどうですか?

志村:仕事中だけじゃなくて、休みの日にも履いています。朝、パンツに足を通す瞬間、気持ちが切り替わるんです。仕事に向き合うスイッチが入るし、着ている自分が少し誇らしくなる。『あの服の人』って覚えてもらえるアイコン的な存在にもなるのがいいですね。

 ―― アイコン、良いですね。ヘリテージパンツのようなワークウェアに対する考え方が変わった瞬間とかはありますかね?

志村:最初はただの作業着だと思っていました。でも、実際に履いてみて、その心地よさとか実用性に気付くと、ただの道具じゃなくなるんですよね。むしろ、自分自身を表現できる大事な存在です。

 ―― まさに“自分になる服”ですね。

 志村:そうですね。ただ着飾るだけじゃなくて、シンプルで実用的、そして自分の価値観を反映してくれる。ヘリテージパンツはそういう意味で、仕事にも日常にも欠かせない一本です。

 彼が厨房でこねる生地、その感触。
初めて触れたイタリアの空気、フィレンツェの街角で見つけた小さな店。
そこに流れる時間の中で、形作られた価値観。
手間がかかるけれど、それには理由がある。

一方で、彼の人生にはもう一つの「作る」がある。
かつて袖を通したアメリカンカジュアルの服たち、その縫い目に刻まれたストーリー。
作るという行為に戻る。
料理人としての道を選び直した理由は、そんなシンプルなもの。そして、今彼が愛用するヘリテージパンツ。シンプルで、丈夫で、動きやすい。
ただの作業着ではない。仕事への気持ちが整う自分への誇り。


「汚れを気にせず、作り続ける。」
それは単なる服ではなく、人生の道具であり、価値観の表れであり、
そして、自分を表現する一枚。彼の手で生まれる料理のように、そのパンツもまた、日々を彩る大切な存在である。

 text and photograph by hilomi yoshida