WORKERS STYLE vol.13
ヘリテージパンツは完成していない。
ワークウェアとは、現場で履かれて働いて、初めてワークウェアとしての本来の意味・価値が伴う。着る人が自分の癖や働き方、思想を反映させるためのツールのような存在。ワーカーが自分の働くスタイルに合わせてカスタマイズし、それぞれのライフスタイルや価値観を表現していくアイテム。着る人の使い方やこだわりによって、ワークウェアは初めて「完成」されていく。このパンツがどんな風にその人にとっての欠かせない自己表現になるのか。ヘリテージパンツを通して、様々なワーカーにスポットをあてていく。
銀彫
銀といえば何が思いつくか。
食器なんていう銀の匙もいれば、雪などとロマンチストも多少いるかもしれない。
私の場合は、まあ服を扱っているものだから、ジュエリーに行きつく。
シルバーアクセサリーではない、シルバージュエリーだ。
なんでもアクセサリーという言葉を使うのは日本人だけらしい。
この記事を読んでいる人は、きっと海外で赤面することはない。
たまには有益なことでも言っておかないと。
話がズレたが、そんな銀を扱う、私の尊敬するデザイナーに話を伺うことができた。
Hiroki Oguma /ジュエリーデザイナー
1986年生まれ、東京都出身。高校時代に独学でジュエリー制作を始め、ジュエリーの専門学校を経て、22歳で自身のブランド〈LEGIOMADE〉を立ち上げる。日々の制作においては、モチーフとなる対象に深く向き合い、ストーリーや歴史的背景を丁寧に掘り下げる姿勢を大切にしている。
―― お久しぶりです、小熊さん。今日はお忙しい中、ありがとうございます。
小熊:久しぶり。3年ぶりくらいだね、よろしくお願いします。
―― それでは。〈LEGIOMADE〉というブランドの立ち上げるきっかけから聞かせてください。
小熊:どこから話そうかな、、、。
そもそもジュエリーに惹かれたのは、親が持っていたジュエリーを子どもの頃にこっそりつけて遊んでたのが始まりなんだよね。なんか“光るもの”って、それだけで特別に感じられて。お宝を発見したみたいな(笑)。
―― 幼稚園の頃からその感覚があったって、なかなか早熟ですね。
小熊:そうそう、原宿の露店で売ってるアクセサリーとかも。雑誌を読んでは夢中になっていったね。高校の頃には「自分で作った方が良いものができるかも」って思って、東急ハンズで適当に道具を揃えて、独学で始めたのが最初かな。
―― すごい行動力ですね。そこから専門学校に?
小熊:うん、何かの雑誌かは忘れたけど、学べる場所があるっていうのを知って。作っていくうちにどんどんのめり込んで、専門学校に通って、そのままブランドとして活動を始めました。22歳のときには〈LEGIOMADE〉って名前をつけてスタートしています。
―― 今更ですが、ブランド名のLEGIOMADEってあまり聞きなじみがない言葉だなと。どんな由来が?
小熊:ラテン語の“LEGIO”って、「選ばれたもの」とか「軍団」って意味があるんです。軍団って、選ばれた者しか入れないらしくて。ジュエリーも、作る人と身につける人が運命的に出会う、そんな“選び合う”関係であったらいいなと。そこに「メイド(作る)」を足して、〈LEGIOMADE〉にしました。
―― 選び合うっていうのが素敵ですね。そんなジュエリーを制作する上で大切にしていることは?
小熊:対象に対してちゃんと知ること、観察すること。自然だったり、生物だったり、建築だったり。ストーリーを知った上で手を動かす。そうすることで、自分なりの解釈や造形に落とし込めるんです。表現って、知ることから始まると思ってるので。よく知らないで作るものはやはり中途半端になってしまうから。
―― 独自の視点ですね、でもファッションに通づる所も多いですね。他には最近、特に意識していることはありますか?
小熊:「感謝」かな。ありがたいことに忙しくさせてもらっていて。そんな中でも手を動かせること、いろんな人と出会えることって、やっぱり特別だなと。大海くんとの出会いも含めて、そういう機会があること自体に感謝してます。
―― それが作品にも表れている気がします。服についてもお聞きしたいのですが、普段の服装は?
小熊:オールブラックが基本です。シルバーが映えるし、自分がつけたときの見え方も確認しやすい。作業着も全部黒。ファッションとしては、緩さと絞りの“メリハリ”があるものが好きですね。
―― ヘリテージパンツはそのバランスにハマりましたか?
小熊:めちゃくちゃいい。実は、あれからずっと履いてる。これから暖かくなるのが楽しみで、もう手放せないですね。汚れていくのも味になるし、ボロボロになっていく過程すら、かっこよくなる服ってなかなかないですよ。
―― 働く服について、一言で表すなら?
小熊:ツールですね。ジュエリーを作るための道具と同じ。服も“働くための道具”です。たいそうなことは言えないけど、無いとできない。だから大事にしています。
身につけることで完成する、というのはジュエリーもワークウェアも同じかもしれない。
小熊さんの言葉を追ううちに見えてくるのは、繊細で静かな手つきで素材と向き合う姿。
観察し、調べ、対話し、そこから作品に昇華していくプロセスは、まるで祈るようでもある。
彼が日常に選ぶ黒は、無地の背景ではない。
そこに銀がきらめき、汚れが物語となり、日々の工程が刻まれていく。
ヘリテージパンツもまた、小熊の手元で徐々に味を帯び、彼の制作を支える静かな道具となっていく。
言葉少なに、「ツール」と呼ばれたその服には、確かに生きた時間が映っている。
感謝の気持ちを起点に、黙々と手を動かす。
彼のジュエリーには、敬意と時間と温度が、確かに宿っている。